2025年9月12日金曜日

理想を超えて:高精度SPICEモデルの価値

 


SPICEモデルの活用メリット

1. SPICEとは何か

  • 定義: SPICEは「Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis」の略であり、「ICのためのシミュレーション・プログラム」を意味します。元々は集積回路(IC)開発のために作られたシミュレータですが、現在では広範な回路設計に利用されています。
  • 起源と現状: SPICE自体はカリフォルニア大学バークレー校で開発された無償のソフトウェア(研究開発結果)です。現在市場に出回っているSPICEは、このプログラムを基盤に、演算の高速化、グラフ描画機能、回路図描画機能といった便利な機能(GUI)が付加されたものです。
  • 主なシミュレータ:
  • LTspice (リニアテクノロジー社): 同社の半導体拡販のために無償で提供されており、制約が少なく汎用性が高いため、急速に普及しています。
  • PSpice A/D (ケイデンス社): OrCADシリーズの一部で、パッケージ価格は約130万円です。
  • Micro-Cap (Spectrum Software): シミュレーション専用ツールで約90万円。CQ出版から簡易版が約2万円で販売されています(小規模回路向け)。

2. SPICEでできることとメリット

SPICEを活用することで、回路設計において以下のメリットが得られます。

  • 設計検証: 実際の回路を製作することなく、設計した回路のあらゆる部分の電圧や電流波形を観測できます。
  • コスト削減:
  • 高価な測定器(オシロスコープ、電源装置、ファンクションジェネレータ、電流プローブなど)が不要になります。「高価な測定器も不要で波形観測できます」。特にLTspiceはツール代が無償です。
  • 安全性向上:
  • シミュレーションであるため、部品の破損、感電、火災のリスクがありません。「SPICEはシミュレーションなので、部品を壊す恐れ も、感電する恐れも、火災の恐れもありません. もちろんPCが壊れることもありません。」特に数千Vを扱う強電回路の設計において、実際の試作・試験に伴う危険を回避できます。
  • 設計効率化:
  • 試作と測定を繰り返す従来の設計プロセスを大幅に改善します。SPICEを使えば、「回路を設計する→シミュレーションする→回路を修正する→ シミュレーションする→設計ミスがない状態で試作に移れる」という流れが可能になります。
  • これにより、「試作の回数を削減することで、トータルコストと設計 時間の削減が可能」となり、設計品質も向上します。

3. SPICEの限界とSPICEモデルの重要性

SPICEは万能ではありません。

  • 理論値との乖離: SPICEはあくまで理論に基づいた計算を行うシミュレーションであり、「理論どおりの結果しか得られません。実物の挙動と は異なった結果が得られます」。回路図通りに入力しても教科書的な波形しか得られない場合があります。
  • モデルの質: 「シミュレーションと実値が異なるのは、シミュレー ション・モデルの作り方が悪いだけ!モデルが正 しければシミュレーション結果と実値は一致する」という考え方があり、この「正しいモデル」が重要になります。

4. SPICEモデルとは

  • 定義: SPICEモデルは、「実際に存在する電子部品そのものの挙動を真似る、プログラムの「部品」」です。中身は等価回路モデルで記述されます。
  • 作成方法:
  • OPアンプなどのICは、データシートの仕様から値を導出してモデルが作られます。
  • ダイオードやトランジスタは、実際に通電して電圧と電流の加わり方を測定しながらモデル化されます。
  • 「基本的には実際のものを動かした結果からモデルを作ります」。これにより、SPICEモデルは実物の動きを疑似します。
  • SPICEモデル作成には高度なデバイスモデリング技術が必要です。
  • 理想モデルとの違い:
  • 一般にSPICEに備わっているモデルは「理想モデル」であることが多く、これは「理論上こう動く」というモデルであり、その通りに動く「実際の部品」は存在しません。
  • 例として、理想ダイオードと実際の1N4148ダイオードの電流特性を比較すると、0.7Vを境に電流が急増する理想モデルに対して、実際のダイオードは緩やかな立ち上がりを示し、明確な差異があります。

5. SPICEモデルの重要性

  • 精度の高いシミュレーション: 「理想モデルで組んだシミュレーション・モデル は正しい結果を出さない」ため、「正しい結果を得るには実際の部品と全く同じ動きをするSPICEモデルを使うことが重要」です。
  • 実物挙動の把握: 実デバイスのSPICEモデルを使用することで、「かなりの精度で実物の挙動を把握できる」ようになります。
  • 現代の回路設計における必須性:
  • 現代の電子回路は複雑化、微細化しており、試作しても実測できるポイントが限られています。
  • 高精度の測定器は非常に高価です。
  • 「試作と実測を繰り返す時代は終わりました」。
  • これらの理由から、シミュレーションによる挙動追跡が不可欠であり、そのためには「正しいSPICEモデルを使うことが重要」と結論付けられています。

このブリーフィングドキュメントは、SPICEの基本的な概念、その活用メリット、そして特に実際の部品の挙動を正確に再現するための「SPICEモデル」の重要性についてまとめています。

SPICE技術と関連発表の系譜

タイムライン

  • 時期不明 (起源):
  • カリフォルニア大学バークレー校で、IC開発のための無償ソフトウェアである「SPICE (Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)」が開発される。
  • SPICEをベースとして、演算の高速化やグラフ描画機能、回路図描画機能など便利な機能(GUI)が追加された商用シミュレータが市場に出回る。
  • 2005:
  • PSpiceの活用方法に関する発表 (Tsuyoshi Horigome)
  • 2010:
  • 事業内容2010に関する発表 (Tsuyoshi Horigome)
  • 2013226:
  • ビー・テクノロジーの事業内容に関するPDFが公開される。
  • 2014:
  • Makerの『道具』としてのLSI ~『LED点滅用のLSIをつくって Lチカをやってみた』のココロ~(MakerFaireTokyo2014)」が発表される (Junichi Akita)
  • 20155:
  • トランジスタ技術20155月号で、GaN FETのモデリングとシミュレーションに関する記事が発表される (Tsuyoshi Horigome)
  • 201565:
  • SPICE MATLABユーザー向け二次電池シミュレーションセミナー資料が発表される (Tsuyoshi Horigome)
  • 2016220:
  • ビー・テクノロジーが「SPICE及びSPICEモデルとは(SPICE活用のメリット)」と題する資料を公開。この資料はSPICEの定義、種類、活用メリット、SPICEモデルの重要性を解説している。
  • 20173:
  • Spicepark mar2017 (4,629 SPICEモデル) が公開される (Tsuyoshi Horigome)
  • 20174:
  • Spicepark apr2017 (4,640 SPICEモデル) が公開される (Tsuyoshi Horigome)
  • 2023:
  • YAPC::Kyoto2023 LTで「ChatGPTと文字コード」に関する発表が行われる (Shunsuke Tsuchiya)
  • 20245:
  • SPICE PARKで太陽電池モデル46個の更新が行われる (Tsuyoshi Horigome)
  • 20246:
  • SPICE PARKで一般ダイオードモデル33個の更新が行われ、SPICE PARK JUN2024のモデル数が6,826になる (Tsuyoshi Horigome)
  • 20247:
  • SPICE PARKで太陽電池モデル40個の更新が行われ、SPICE PARK JUL2024のモデル数が6,866になる (Tsuyoshi Horigome)
  • 2025 (予定):
  • ODC2025で「macOSIME作ってみた 漢字直接入力IMEMacTcodeについて」に関する発表が予定されている (Kaoru Maeda)
  • Scrum Fest Sendai 2025で「SAFe実践から見えた、フレームワークより大切な組織変革の道程」に関する発表が予定されている (NTT DATA Technology & Innovation)
  • 電子情報通信学会_NS研究会20250905で「クラウドネイティブなテレコム装置のトラフィック制御の一考察 eBPFLSTMを利用したダ...」に関する発表が予定されている (ssuser370dd7)
  • LL2025 AI編で「3つのLLM3つの言語でパズルソルバーを作成」に関する発表が予定されている (Kaoru Maeda)

登場人物 (Cast of Characters)

  • Tsuyoshi Horigome (堀米 毅)
  • SPICEおよびSPICEモデルに関する多数のセミナー資料や技術文書の著者。LTspice入門、二次電池シミュレーション、自動車業界向けSPICE活用、受動部品のSPICEモデル、バリスタの等価回路モデリング、GaN FETのモデリング、各種SPICE PARKのモデル更新など、幅広いテーマで情報提供を行っている。ビー・テクノロジーに関連する資料も多数発表している。
  • Junichi Akita (秋田 純一)
  • LSIの開発と活用に関する発表者。「LED点滅用のLSIをつくってLチカをやってみた」や「Makerの『道具』としてのLSI」などのタイトルで、カスタムLSIや集積回路の応用について講演している。
  • Hiroshi Yoshioka (吉岡 浩史)
  • Ingest node scriptingElastic Community ConferenceUniform indexing load with cluster reroute APIなど、データ処理やシステム構成に関する技術発表を行っている。
  • Kaoru Maeda (前田 )
  • AIと言語処理、macOSIME開発に関する発表者。LL2025AIとパズルソルバー、ODC2025macOSIME開発について講演を予定している。
  • Shunsuke Tsuchiya (土屋 俊介)
  • ChatGPTと文字コードに関する技術発表者。YAPC::Kyoto2023 LTで関連テーマについて講演している。
  • 谷本 (タニモト シン)
  • Javaシステムのトラブルシューティングやパフォーマンスチューニングに関する実例を共有している。
  • pol eight
  • 「感電入門」というPDF資料の著者。
  • ssuser370dd7
  • 電子情報通信学会_NS研究会20250905で、クラウドネイティブなテレコム装置のトラフィック制御に関する発表を予定している。
  • kazuyabrothers
  • SpriTalk」アプリ群の紹介資料を生成AIなんでも展示会Vol.4で発表している。
  • NTT DATA Technology & Innovation
  • Scrum Fest Sendai 2025で、SAFe実践から得られた組織変革の道程について発表を予定している。

組織:

  • マルツエレック株式会社 (Marutsu Elecec Corporation)
  • LTspiceを活用したシミュレーション、回路シミュレータの活用方法、太陽電池のSPICEモデルなど、SPICE関連のセミナーや資料を多数提供している電子部品販売会社。
  • ビー・テクノロジー (Bee Technologies)
  • SPICEモデルの提供、回路シミュレーション導入ソリューション、デバイスモデリングなどを手掛ける企業。多くのSPICE関連資料の著作権表示に見られる。
  • リニアテクノロジー社 (Linear Technology Corp.)
  • SPICEシミュレータの一つである「LTspice」を無償提供している企業。
  • ケイデンス社 (Cadence Design Systems)
  • SPICEシミュレータの一つである「PSpice A/D」を提供している企業。
  • Spectrum Software
  • SPICEシミュレータの一つである「Micro-Cap」を提供している企業。
  • カリフォルニア大学バークレー校
  • SPICEの元となる無償ソフトウェアを開発した学術機関。
  • CQ出版
  • Micro-Capの簡易版を販売している出版社。



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